本報告では楽曲の和声は短い和声常套句の連鎖であると考え、和声進行モデルを
採用する。ここでは常套句として、1つの和声が2拍に対応した2小節長のものを
扱う。使用した和声は12音階それぞれを主音とする3音和音(長三和音・短三和音・
増三和音・減三和音)48(124)種類とし、今回は七の和音や変化和音は除
外する。豊富な和声常套句を得るために、バッハの四声のコラール(BWV 1-438
に含まれるカンタータ、モテット、受難曲、オラトリオ、および C.Ph.E.Bach
編纂のコラール集などに含まれる)のうち、4分の4拍子で冒頭に弱起をもたない
楽曲94曲から学習した。
常套句を用いることで、局所的には楽曲らしい自然な和声進行が実現できると考
えられる。しかし、従来の常套句連接モデル[18]では常套句間に遷
移則を与えていないため、常套句間の不自然な接続が現れることもあった。そこ
で本報告では常套句間に遷移確率を与えることを試みる。常套句間のbigram確率
を統計学習して用いるためには多量の学習サンプルを必要とする。そこで常套句
間のbigram確率を近似するために、先行する常套句の最後の和声と後続する常套
句の最初の和声との2和声間遷移確率を用いる(図)。ある
和声進行
が出現する確率
をある和声常套句
が出現する確率
と常套句間の遷移確率
を用いて次
のように近似する。