隠れマルコフモデル(HMM)に基づくピアノ運指の自動決定

米林裕一郎 亀岡弘和 嵯峨山茂樹

HMMに基づくピアノ運指の自動決定 - ピアノ演奏の確率的モデル

【目標】HMMに基づくピアノ運指の自動決定は、確率モデルによりピアノ演奏をモデル化する新しい枠組みです。単に信頼度の高い運指決定を実現するだけでなく、ピアノ演奏における合理的な手の動きを定式化することを目標としています。

【背景】運指が難しいのは、一つの音(あるいは一まとまりの和音)を演奏したあと、その次の音を楽譜で指定された時間内に演奏しなければならないからです。ピアノ演奏者なら、中指(薬指)と薬指(小指)を交互に動かしにくい、親指で黒鍵を打鍵するのをしばしば避ける、必要なところでは指をくぐらせる、といった事実やルールを考慮するでしょう。これらの事実やルールを組み込んだ一貫した運指決定モデルを構築する必要があります。

【特徴】運指決定の既存研究は、楽譜から運指への変換に注目しているものがほとんどですが、運指決定の合理的・数理的な定式化が困難になっています。そこで、我々は運指から演奏への変換に着目し、確率論的なアプローチを取ることで数理的な定式化を実現します。このアプローチにより、運指決定は演奏(「結果」)から運指(「原因」)を推定するという逆問題として捉えられます。

【考察】このアプローチにより、運指決定のメカニズムをHMMのモデルパラメータの特徴や値により定性的・定量的に述べることができます。さらに、推論過程・結果の正当性(尤もらしさ)を確率として表現できるため、例えば、複雑なルールベースにおける適用ルールの競合といった問題は生じないという利点があります。

HMMを用いた運指モデル.

【応用】ピアノ学習者に対し見本となる演奏を提示するシステムで利用できます。ピアノ演奏ロボットの動作計画の一部として考えれば、ロボット指作業全般への応用も期待できます。このアルゴリズムを元に、ピアノ曲の難易度を計算することが可能かもしれません。それが可能になれば、ピアノ曲の練習計画の自動生成や、難易度を検索キーとしたピアノ曲検索への応用も考えられます。また、自動作曲(編曲)されたピアノ曲が実際に演奏可能かどうかを判定するための基準として用いられるかもしれません。また、我々の提案する数理モデルが、ギターなど他の楽器の運指決定にも応用されることが期待されます。

キーワード: ピアノ, 運指, 指使い, 決定, 隠れマルコフモデル, 自動

関連文献

まず [Yonebayashi2006ASJ03] と [Yonebayashi2006MUS05] (日本語)、その後 [Yonebayashi2007IJCAI01] (英語)にてこの手法と実験結果を発表しました。

実験結果

片手の単旋律の楽譜を用いて運指決定の実験を行いました。モデル・パラメータは、以下のような点を反映した直感的な値に設定したあと、手作業で微調整を行いました:

以下のような尤もらしい結果が得られました:

最初のサンプルでは、指間隔と鍵間隔の対応が見られます。対応していない箇所は、将来の音符を考慮したためと考えられます。
2つ目のサンプルでは、適切な指くぐりが実現されています。
3つ目のサンプルでは、親指での困難な黒鍵打鍵が回避されています。

問題のある運指の箇所も若干見られましたが、具体的な解決策が考えられます。

最初のサンプルでは、音符長によっては同じ音を別の指で打鍵すべきです。この例から、運指決定モデルに音符長の情報を組み込む必要があることが分かります。
2つ目のサンプルでは、安定した手の動きの運指になるべきです。モデル・パラメータの値をさらに微調整するか、手の動きを表すモデル・パラメータを組み込むことが解決策として考えられます。

詳細についてはPDFファイルや [Yonebayashi2007IJCAI01] の解説記事を参照してください。


[ 研究室ホームページへ戻る ]